『アイツと逢ってほしくない? お前さ、俺が何でアイツに逢いたいって思うか分かってねーだろ!お前に魅力がねーからだよ!アイツはお前と違って今でも魅力的だと思うし、色々と努力もしてる。悔しかったら、もっと魅力的になれよ!・・・チッ、またそうやって泣く。泣けばいいと思ってんの?』
「ごめん・・なさい・・・」
『ごめんじゃねーよ。マジそういうとこウザい。』
吐き捨てられた「魅力がない」という言葉は、秋乃の心に 深く大きな傷を残した。
彼には、高校の頃から付き合っていた彼女がいて、浮気症の彼は、秋乃と二股をかけていた。
綺麗で性格の良い彼女といつも比べてしまい、秋乃の不安は消えることは無かった。それでも彼が選んだのは秋乃であり、その証は 同棲という形に現れていた・・・はずだった。
だが、度重なる浮気と、元カノとの家族ぐるみの繋がりも切れてはいなかった。秋乃の嫉妬や疑いは深まるばかりで、彼への執着や束縛の度合いも増していく。その行為は、明らかに逆効果となり、束縛をすればするほど 彼の心は離れてしまう。そして秋乃から女としての自信そのものをも奪い去ってしまった。
そんなある年の夏・・・
彼の地元への帰省が、元カノとその姉を伴ったものだと聞き、秋乃は泣きながら問いただした。
私がいるのに、なぜ 元カノと逢うの?
元カノじゃなく、私を選んでくれたんじゃなかったの?
私が嫌がっているのわかってるのに、なんでこんな事するの?
そう言われた彼は・・・心底嫌気がさしたような顔で「お前には魅力がない」と告げたのだ。
帰省中に言い過ぎたと謝られ、仲直りはしたものの・・・あの時の彼の表情と言葉は、ずっと秋乃の心に焼き付いて、その後の些細な言い争いのたびにフラッシュバックするようになった。
結局、彼の浮気癖は一度も治らず、ついに秋乃のもとを去ってしまった。
そして、秋乃は 壊れてしまう。
寂しさを埋めるために、飲みに行っては・・・ナンパされた相手と一夜を過ごし、好きでもない男と付き合い始める事もあった。
声をかけられ、可愛いと言われても、なんの感情も湧かなかった。
あれだけ傷つけられても、元彼のことが忘れられなかったのだ。
それはもう、好きという感情よりも、彼への依存から抜けられない執着心そのものだったのかもしれない。
秋乃の体を通り過ぎる男たちは皆、秋乃の心の傷を癒やすことも、塞ぐこともできず、傷はだんだん秋乃を蝕んでいった。
<<もう誰も好きになれないし...誰からも愛されっこないよ...>>
秋乃はそう思い、恋愛に期待しなくなっていった。
そんな中・・・
高橋は、中途採用の秋乃を気遣ってくれる良い上司だった。
そして、秋乃を好きだと求めてくれたのだ。
高橋に対して、もしかしたら また恋愛のトキメキを感じられるようになるかもしれない・・・と、かすかな希望を感じていたのかもしれない。
心を好きになってくれたから、体を求められたのだと勝手に思い込んでいた。
だけど・・・違った。
<<やっと、誰かを好きになる気持ちを取り戻せるかも...と思ったのに、やっぱり無理なんだな。私なんて、もう誰も本気で好きになってはくれない。>>
---- 誰も、私を愛してくれはしない。 -----
絶望と諦めが、秋乃の心を覆っていく。
でも・・・
それでもなお、心の奥底で“誰かを愛したい”“愛されたい”と願っている自分自身がいた。
運命の出逢い・・・
それは、思いがけない時と場所で 必然のように用意されているものだ。
秋乃の心を癒やし、心から愛してくれる“運命の人”は、すぐ近くまで訪れていた。