紫煙の向こうに光る眼①
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「いい眼になった。その眼が見たかったんだよ。お前のその眼・・・すげぇソソル。」
と彼は言い、私に優しくキスをした。
あれは、蒸し暑かった夏から秋へ変わりはじめてきた、9月の月が綺麗な夜だった。
私は大学時代のサークルの先輩、リホさんの計らいで、リホさんのお兄さんのタケルさんとその友達と
合コンをするハメになり、都内の和食ダイニングにいた。
リホさんの実家に遊びに行った時に、たまたまタケルさんもいて、3人で話してると・・
1年近く、彼氏を作る気を起さない私を心配したリホさんがタケルさんに
『兄ちゃん、友達とかでイイ人いない?凛香、もう1年も彼氏いないの。』
と話をもちかけ、トントンと話が決まってしまい、数日後に合コンをすることになったのだ。
凛香:
「リホさん・・・私、別にいま彼氏いらないんですけど・・」
リホ:
「何言ってんの!あの男と別れてからもうすぐ1年も経つんじゃない。凛香、女は恋してないと!
いつまでも、あんな男との事引きずってちゃダメ。もったいないよ。」
リホさんが、「あの男」と言っていた人。
それは私が高校の時から付き合っていて1年ほど前に別れた男の事だ。
彼とは6年間付き合っていて散々浮気され、一旦落ち着いたと思っていたのに、
実は裏で二股をかけていて、ある日向こうの彼女との間に子供ができた事を告げられ、別れたのだ。
リホ:
「あんたは、人がよすぎるっていうか・・・我慢しすぎるのよ。」
凛香:
「そうですかね(笑)まぁ、好きだと相手に甘過ぎる事は・・自覚してます・・」
自分では、彼の事はもう引きずってなどいないと思ってた。
でも、男の人に対して・・・そして何よりも自分に幻滅していた。
6年間、浮気し続けられ、あげくほかの女と子供を作って別れた彼。
その彼を信じ、赦し、結局裏切られた無様な自分。
彼と別れて、自棄になっていた私は友達に紹介された男の子と遊びセフレみたいな関係になり
クラブに遊びに行ってナンパされた名前もほとんど覚えてないような人とそのまま体を重ねたりした。
でも、心にポッカリ開いた穴はちっとも満たされなかった。
この1年で出会った男たちは、私を何も満たしてくれなかった。
もう、自分は人のことを好きになれないんじゃないかと思っていた。
そして、自分のことを愛してくれる人なんていないのではないかと思っていた。
誰かと体を重ねるたび、虚しさは募り、心の穴は広がっていく。
こんなことになるのなら、もう誰とも付き合わなくてもいいと思っていた。
だから、その合コンも本当は乗り気ではなかったのだ。
でも、タケルさんがわざわざメンツを集めてくれてリホさんも女の子を集めてくれたので、
おいしいご飯とお酒が飲めればいい。という考えで参加することにしたのだ。
そこに、遼がいた。
その合コンはリホさん・私・リホさんの会社の後輩ミチちゃん・トモヨさんの女の子4人と
タケルさん・遼・北原さん・遠野さんの男4人の計8人で行われた。
タケルさんと遼は大学の同級生、北原さんと遠野さんは大学の後輩ということだった。
タケル:
「兄妹が幹事ってのも変な感じだけど、まぁ楽しく飲もう!じゃぁ、まず自己紹介から。」
まずは、男から自己紹介が始まった。
北原:
「北原 博史です。飲食業界のリーマンです!年は29歳。楽しく飲みましょう!!」
北原さんは飲食業らしく明るくはきはきとしたムードメーカータイプ。
遠野:
「遠野 康平です。スーパーの店長やってます。北原と同じ29歳です。趣味でフットサルやってます。」
遠野さんは大らかで優しそうなタイプ。
そして・・・
遼:
「早瀬 遼です。今年33歳。一応商社の営業。まぁ、サラリーマンだな。
んー、趣味は読書と音楽とバイク。動物はねこが好き。以上。」
声の素敵な人だなと思った。低くて少しハスキーで、耳に残る声だった。
リホ:
「じゃぁ、次は女の子。凛香からね。」
凛香:
「え・・・あ、ハイ。遠藤 凛香です。不動産会社のOLです。今年25歳です。
えっと、趣味は読書とDVDを観ることです。あと・・・お酒が好きです。宜しくお願いします。」
私や他の子の自己紹介の間、遼は少しうつむいて煙草を吸っていた。
私はなんだか気になって、ちらちらと様子を窺ってしまっていた。
遼がふっと顔をあげた瞬間・・私の視線と遼の視線が交差した。
初めて遼と目が合った瞬間、私は何故かぞくぞくと鳥肌が立ったのだった。