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ひかり⑦


高橋との一件があって以降、秋乃は一人で飲みに行くのを止め、家にこもるようになっていた。あまり他人と関わりを持ちたくなかったのだ。
家にこもり、読書をしたり DVDを見たり・・・ そして少し前からハマっているブログを書く頻度が増えていった。




秋乃が書いているブログは、「Amebaブログ」
ブログの他に、アバター「ピグ」を操り 仮想空間で色んな人とチャット出来るのも魅力の一つだった。

秋乃は毎日、他愛のない日常を書き綴っていたが、たまに自分の恋愛観やエッチな体験を語ることもあり、自撮りで顔や体のパーツを載せたり、興味本位で官能小説めいた文章などを書くこともあった。


ハンドルネームは「NIKO」
秋乃は、ブログやピグで、もう一人の自分...NIKOというキャラクターになり、魅力あふれる女性として 少しでも自信を取り戻せるようになりたかった。




結果は意外なほどハイペースで現われていった。
ブログ人気のバロメータである「読者申請」や、限定記事(ファンのみに公開)へアクセス可能な「アメンバー申請」が日を追って増えていく。

アメンバー達の多くは、NIKOのルックスやボリューム感のある胸元を褒めてくれる。それは失ってしまっていた女としての自信や、もっと注目されたいと思う欲求(自己顕示欲)を、NIKOというフィルタを通して満たしていく。

そして、もともとサービス精神旺盛な秋乃は、アメンバーに期待されるにつれて、もっと喜んでくれる写真を撮ろう・・・もっとエッチでドキドキするような文章を書こうと思うようになっていった。



記事に対するコメントが増え、ダイレクトメッセージ機能である「メッセ」を利用し、直接 秋乃へファンレターを送ってくれる人も増えていく。この頃には、仮想空間でしか接点を持たない人たちとの交流が、無くてはならない日課となっていった。






<<あ・・・メッセ来てる>>
  



PCを開けてブログの管理画面『マイページ』を開けると、【メッセージが届いています】の赤い太文字。いつものように、そのリンク文字をクリックして開封する。



『初めまして。アップした写真見ました。瞳がとても綺麗で可愛いですね。ブログは毎回 読ませてもらってます。物語や普段の日常も、NIKOちゃんの書く文章表現は、とても上手で...オレ好みです(笑)とくにエッチな文章とかは、毎度読んでいてドキドキしてますよ。これからも応援してますから、素敵な文章書いてください。自分もブログやってるんですが、NIKOちゃんと同じく物語も書いてるので、良かった暇なときに一度覗きに来てください。』





そのメッセージはHARUというアメンバーからだった。




この頃には、秋乃のアメンバーは、300名を超えており、ブログの所属カテゴリ『ドМ』のランキングでも、常に上位をキープするほどの人気を集めていた。

そうした中、コメントやメッセで HARUが秋乃の記憶に残ったことはなく、このメッセをもらうまで、アメンバーの中に彼がいることさえ知らなかった。





<< HARUさん・・・か。私のブログちゃんと読んでくれてるんだ。文章の表現力を褒められたのが嬉しいな(〃ω〃) どういう人なんだろう・・・>>

秋乃は、初めてメッセやコメントをもらった場合、できるだけ相手のプロフィールやブログをチェックするタイプだ。





どんな人なんだろう・・・ 少しだけ気になって、HARUのプロフィールやブログを見にいってみた。




プロフィールからは、都内在住の中年男性のようで、特に詳しく明かしている部分はない。だが公開しているプロフィール全体の印象から、思わずおかしくて吹き出してしまうような文章表現も見られ、すでに彼の個性が普通の男性とは違っていることが伺える。

ブログの方も適当にいくつかの記事を流し読みしてみると・・・
過去の恋バナや、自分の恋愛観についても書いているし、秋乃が書いているようなセクシーネタも多めのようだ。

<< 私の書いてるジャンルと結構似てるとこ多いな・・・。 けど HARUさんの恋愛経験値は、なんだか凄そう。どの記事も読んでて面白いし、彼のアメンバーさんも多いのかな。(*´ω`*)>>

いくつかの記事で、彼の恋愛観が垣間見えるのだが、自らを自由人だと表現している。
文章表現を褒めてもらったが、彼の書く文章もまた 秋乃の好みのものだった。





適当な記事を読み終えて、メッセに返事を書く




「こんばんは、初めまして。メッセ有難うございます。瞳が綺麗だなんて、とても嬉しいです!(〃ω〃) 拙い文章でお恥ずかしいですが、読んでくださって有難うございます。HARUさんのブログも読ませていただきました。これからも覗かせていただきますね。」






その日から、HARUとのメッセのやりとりが始まった。





秋乃がブログを更新すると、HARUからメッセが届き、それに返信をする・・・という自然なサイクルができていた。
メッセをし始めて、すぐに気付いたことなのだが、HARUの人柄は、ブログの印象とは、少し違っていて、世代間ギャップをまるで感じないほど、親しみやすく リアルな友達のように話しやすい雰囲気を持った人だった。



少しずつ彼への興味の度合いが上がっていき、ブログの記事を、隅々まで読んでいくようになった。

そして、ブログ記事の中に HARUの自撮り画像を見つける。




<<・・・カッコイイ!!!てか、脚ながっ!!>>




プロフィールに、自らを“オジサン世代”と書いていたので、自分より少なくても一回り以上は離れているだろうと思っていたし、ブログで語られていたエピソードなどから彼の年代を推察すると、40代から50代の可能性も十分にあった。

だが、その画像を見るかぎり、30代後半に見えなくもない。想像していたよりも、随分若い印象なのである。これでは、年齢不詳と言えなくもない。

スラっとしたスリムな体型に、長い脚。整った顔にキリッとした目元。
知的な雰囲気を漂わせていて、とても素敵だった。



メッセでHARUの年齢を聞いてみたら


『NIKOちゃんのご両親と近い世代だと思うよ(笑)』


と言われたが、とても信じられなかった。




HARUはIT系の専門学校の講師をしているらしい。
服装は比較的自由で、キレイめカジュアルでシンプルな服装が多いと言っていた。
それも、若く見える要因のひとつなのかもしれない。




HARUとやりとりを重ねるごとに、HARUとの相性の良さを実感することが増えていき、彼との文字会話が、秋乃に日々 笑顔をもたらしてくれるものになっていた。

当然、秋乃の心には HARUを想う温かい気持ちが芽生えていく。






<< HARUは・・・私のことをどう思ってくれているんだろう>>







そう思っていても、聞くことなど出来なかった。
高橋の時の様に、また堕ちてしまうのが怖かった。所詮、仮想空間での付き合いなのだ。本当のHARUのことはもちろん、本当の秋乃のことを知ってもらっている訳じゃない。

こんなリアルでもない世界でのやり取りを真に受けて、どんどんHARUへの気持ちを膨らましてしまっている自分の方が、よほどオカシイのかもしれない。


HARUはブログで、自分の事を自由人と評している。
秋乃の両親と近い年齢なら、結婚していても不思議ではない。

それに あの外見であれば、モテるだろうし、恋のお相手に不自由するタイプではない。ブログの中の「NIKO」として気に入ってくれてるだろうが、リアルの「秋乃」として逢えば、きっとガッカリさせてしまう。

そう考えている自分にビックリした。

HARUと「逢う」ことを、いつの間にか想像してしまっている。





<<いやいや、無理でしょ。HARUだって、実際に逢ったりするなんて全然思ってないだろうし。>>





もう あんな風には傷つきたくない。

けれど、HARUに対する気持ちを抑えることが出来ず、日増しに彼への想いが大きくなっていくことに戸惑いを感じていた。







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